生活単位の小規模化
児童養護施設等の養育形態については、大きく「大舎制」(定員20名以上)、「中舎制」(定員13~19名)、「小舎制」(定員12名以下)の3つに分けられていました。かつては全国の児童養護施設の約7割が大舎制で運営されていましたが、近年は小規模化が進み、大舎制の施設は約5割となって、小舎制の施設が増えています。それぞれに特徴はありますが、定員が少なくなればなるほど生活単位が少人数になるため、職員の目が子ども達一人ひとりに行き届きやすく、より個別的に支援しやすくなります。さらに、より小さい単位として注目を集めているのが、「小規模グループケア」や「地域小規模児童養護施設」です。前者はグループ定員が6~8人で、これを1つのユニット(生活単位)として生活する形態です。施設の敷地内でも敷地外でも設置することができます。子どものための居室と居間、キッチン、浴室、トイレ等生活に必要な設備を共有します。後者はグループホームです。地域の中の一軒家やアパート等に設置され、定員は6名です。地域社会の中で近隣住民との関係をつくりながら、家庭的な生活を体験できるという利点があります。
生活を支える負担と専門性
生活単位の小規模化が進むと、大規模施設ではうまく感情表現や意思表明を行うことができなかった子どもが、そうした自己主張をしやすくなります。これは小規模化の大きなメリットであると同時に、一方で、それを受け止めなければいけない職員にとっては負担になる面もあります。
Tくん(7歳)は、4歳のときから母親とその恋人から虐待を受けて育ち、施設に来ました。生活することになった地域小規模児童養護施設で担当になった保育士のMさんは、話しかけても何も言わないTくんに、毎日根気よく「おはようTくん」「ご飯は何が食べたい?」「一緒にテレビみようか」「どんなおもちゃが好きなの?」などと笑顔で話しかけながら過ごしていました。一週間くらい経ったある日、Tくんは突然、食事の準備をしていたMさんの横に来て「うあぁぁぁ」と叫び、皿を割りました。Mさんは「びっくりした…けがはない?」と優しくTくんに話し掛けました。その次に、Mさんがつくっていた料理をぐちゃぐちゃにして床に落としました。他の子ども達はみんな「Tくん、やめて!」と怒っています。
Tくんの行動は〝新しい養育者であるMさんが本当に自分に優しくしてくれるのだろうか〟〝自分のことを受け止めてくれる人なのだろうか〟〝どこまでやったら母親や恋人のように自分を虐げるだろうか〟といったメッセージの表現です。このような『試し行動』に対しては、〝叱る〟ではなく〝受け止め、望ましく適切な言動を伝えていく〟という関わりが必要になります。
一方、小規模ケア下では、一人で勤務する時間帯が長くなるため、個々の職員が〝孤立・孤独〟を感じることで、ストレスを抱え込みやすくなります。子どもにとって良い養育環境を整えても、養育を担当する職員が燃え尽き症候群(※)に陥り、離職・退職によって頻繁な入れ替わりにつながっては本末転倒です。子どもにとっても大人にとっても、より良い養育を提供できるような施設の仕組み、各ユニットの閉鎖性を解消できるような工夫等が必要になります。
※燃え尽き症候群
献身的に努力した人が、期待した結果が得られなかった場合に感じる徒労感または欲求不満や慢性的で絶え間ないストレスが持続すると、意欲を失い、社会的に機能しなくなってしまう状態。極度のストレスがかかる職種や一定期間に過度の緊張とストレス下にある場合に発症することが多いと言われている。
*出典:「社会的養護内容」(ミネルヴァ書房)