子どもが過去に起こった出来事や家族のことを理解し、自分の生い立ちやそれに対する感情を信頼できる大人とともに整理する一連の作業を、『ライフ・ストーリー・ワーク』と言います。作業を通じての影響としては、子どもが自らの生い立ちを肯定的に捉えられるようになること、支援者が子どものことを考え、悩み、成長する、自立支援の見通しを立てること等が挙げられます。児童養護施設で暮らす子ども達の中には、「なぜ自分が施設で暮らさないといけないのか」「自分が何か悪いことをしたからだろうか」といった不安や思いを抱えながら暮らしている子もいます。そういった子どもに対しては、過去の出来事を一緒に整理することで、子どもの安心感につながることがあります。一方で、家族内で起きている出来事が複雑であったり、結果として子どもに〝あなただけが家族から排除された〟という事実と向き合わせることになったりすることもあるため、子どもの状況を勘案しながら取り組む必要があります。
子どもに事実を伝える
4歳から施設で暮らしているYさん。保護者の所在についてきちんとした説明を受けないまま、中学生になりました。次第に親の存在を気にしていることに気づいた担当職員が、Yさんにこれまでの生活や人生について一緒に考える時間を持つことを提案してみました。Yさんは最初乗り気ではない様子でしたが、担当職員と一緒に取り組むこととなりました。「私の家族について」を考えるとき、Yさんは担当職員から母親の居場所を伝えられることとなりました。担当職員は、Yさんがどのようにそのことを受け止めるか不安な面もありましたが、伝えたことで“自分の親がいる”ことがわかり、これまでより落ち着いた生活をすることができるようになりました。
施設で暮らす子ども達は、その子が何歳くらいから生活を始めたかによって、自分の育ちについて理解している子としていない子に分かれます。一定程度の年齢が過ぎてから施設で暮らすことになった子どもは、自分が家庭等から施設へ生活の場を移さなくてはいけなくなった理由を把握していることもあります。但し、いつも正しい理解をしているとは限りません。その一方で、乳幼児期から施設で生活をしている子どもは、〝気がついたら、ここ(施設)で暮らしていた〟ということも多く、小学校等に進学し、家庭で実の親と暮らしている子ども達と出会うことで、初めて自分の置かれている状況に疑問を感じるようになります。そういった子どもが思春期を迎える頃になると、自分の育ちがわからないことによる不安や悩みを抱えるようになることがあります。
AさんとRさんの兄弟は、母親が一人での子育てに行き詰まったため施設入所となりました。本人達は知りませんでしたが、それぞれの父親が違っていました。二人にライフ・ストーリー・ワークを行うプロセスで、実は父親が違うことを伝えることとなりました。兄弟にそのことを伝えたところ、「やっぱり…」という反応がありました。子ども達も母親との生活やその後の状況を鑑みるに、うすうす感じていたことでした。AさんとRさんは、この事実を知ったことで「Aちゃんのそういうところ、あなたの父親に似たんじゃない?」という会話が自然に交わせるようになりました。
子どもは成長する中で、自分の育ちや兄弟の関係について疑問を持つことがあります。「兄弟」といっても、施設で暮らす子ども達の中には、それが血縁そのものにつながらないこともあります。こういった子ども達の疑問に答えていくことも、ライフ・ストーリー・ワークの大切な役割となっていきます。また、子どもが事実を知ることはすべてマイナスにつながるわけではありません。子どもにとって大切なのは、事実を受け止める場と支える人がいることといえます。
*出典:「社会的養護内容」(ミネルヴァ書房)