児童養護施設から退所する場合、高等学校卒業後に就職や進学を通じて自立(自活)していくだけでなく、親元へ引き取られていくこともあります。前者の場合、勤務先にある寮などでの住み込み、自分自身で収入を得ながら賃貸住宅で生活することとなります。後者の場合、父母又は祖父母など特定の親族(大人)とともに暮らし始めることとなります。ここでは、親子関係を再び取り戻した経緯から、日常的な親子関係を考えます。
施設職員からの働きかけ
「母親から日常的な養育で妹に差をつけられるため家に帰りたくない」と、小学校の担任を通じ、児童相談所(子どもが施設へ入所するかどうかを決める行政機関)を経由して児童養護施設に入所したB君。両親は言い分を聴いてもらえなかった児童相談所に強い拒否感を示したため、施設職員が家族関係を調整することとなりました。
母親と父親それぞれに分けて面接すると、見えてきた家族関係がありました。B君の幼い頃から家庭を顧みず交際する女性がいた父親と、父親に子育ての相談が全くできず一人で三人の子ども(兄・B君・妹)を育ててきた母親…。
その苦労をねぎらい寄り添っていくことで、母親は自分自身を振り返ることができるようになり、施設職員との間に信頼関係も形成されていきました。
子ども自身の思い
B君とは施設生活の中で関わるうちに、〝具合が悪い時は家ではどうしていたの?〟〝その時はどのように感じたの?〟〝妹のことはうらやましかった?〟等と話を聴き広げながら思いを引き出していきました。そのうち、「イライラした時にモノを盗るとスッキリする」「叱られた後は盗りたくなる」とB君の思いが語られました。そして、悪いことをしていると理解しているのに、盗ってしまうのは、根底に〝寂しさ〟があることに気づかされました。そのため、ベットメイクや居室整備、花を飾るなど快適な居住空間を職員が提供することで、気持ち良く生活ができ、B君の中で整理整頓や掃除することの意識が芽生えていきました。年少児が発する言葉を〝かわいい〟といって意図的に共感する場面を設定したり、疲れているときに回復力が高まる料理を出したりと“周囲の大人が心配している…気遣っている…”ということをB君が理解できるよう支援し、関係形成に努めました。
一方、母親とは面接を始めて1年半が経過し、虐待ではないが「(妹との差を)そのように感じ取らせてしまったこと」に対する謝罪が自発的に述べられるようになりました。次第に、家庭復帰をゴール設定することが可能になり、計画の進捗状況を児童相談所へ定期的に提出し、連携を図っていきました。そして、施設内での面会がスタートして3年が経過した高校3年生の夏に、家庭への復帰となりました。
親子関係再構築の重要性
B君にとっては、施設職員による育て直しにより、少しずつ獲得されていった信頼感や自尊心だけでは不十分であり、自身の生い立ちや過去の思い込み(自分のせい・自分が悪い…等)を修正した上で、主体的に親との関係を捉え直すことが必要でした。こうしたことによって、生まれてから今までの〝人生〟が連続していること、親(家族)と肯定的につながっていること等、自己を肯定的に眺めることにつながります。親自身も、子どもに加えた不適切な行動の責任を認め、子どもを大切に思っていることを伝えることができれば、子どもは〝自分は親に愛されている大事な存在だ〟と感じることができます。また、親自身の養育姿勢や行動が子どもに沿った適切なものに改善されれば、現実的なつながりの中で、かけがえのない家族と一緒に暮らすことができますし、より一層、自己肯定感を育んでいくことができるようになります。
*参考:厚生労働省HP