第13回:少子・高齢社会の中の日本の福祉

掲載日:2017年4月14日(金)

「なんぼになったかな?」
「30歳です」
「ははは、生年月日は?」
「大正12年」
「よう覚えとる」

朝日新聞(平成29年1月5日)に掲載された岡山市在住のある夫婦の会話です。夫妻はともに大正15年生まれ。奥さんは認知症を患っています。
「以前なら『90歳だろ』、と言ってケンカになりました。でも、今は正しません。だから平静でいられるのです」とご主人はおっしゃいます。

奥さんは介護の必要度が最も高い要介護5。夫妻に子どもはなく、一軒家に二人暮らしです。

異変は15年前から。7、8年前から徘徊が始まり、ご主人を認識できなくなりました。

家に帰る」という奥さんに、「ここが家!わしが主人だろ!」とご主人が怒鳴っても、首を振るばっかりの奥さん。介護するご主人は精神的・体力的に追いつめられていき、挙句の果てに体を壊して入院することに…。

“ボケババア。殺してやろうかと思うと身が震えた…”

長年つけている日記には激しい言葉が目立つようになっていました。

長年一緒に生活してきたパートナーなのに、一番忘れてはいけない相手のことを認識できなくなるのが認知症なのです。

そんなご主人は2年半前に、認知症介護体験講座の新聞記事を目にし、実際に参加されました。そこで、「認知症の人の言動を正さず、『演技』で受け入れることの大切さ」を学ばれました。そこで、次第に演技をして話を合わせていけば、お互い穏やかに過ごせることを実感するようになったそうです。

“私も妻もパニックにならずに済む”

日記から、後ろ向きの言葉が消えていきました。

介護には終わりが見えないのです。つらさを紛らわすために『演技』が必要です。だいぶ、救われています」

認知症介護では、相手の感情に寄り添うことが大切と言われます。しかし、現実にはほとんどの場合、介護する側が、認知症を患う家族に優しくできないことで自分に嫌悪感を抱くことが避けられないようです。

認知症介護体験講座は全国各地で行われています。

この方が参加したのは、認知症の人の役や介護者役をお互いが演じ、とっぴな言動を受け入れてくれた時、否定された時、それぞれの気持ちを参加者に実感させる講座でした。大半の人が、受け入れてくれた時の方が「心地良い」と感じたといいます。認知症が進んでも感情は残っているわけですから、誰だって否定されてうれしいはずがありません。

講座の主催者は言います。

言動を正せばストレスを与えてしまう。逆に相手の世界を受け入れて、時には別人になることで、介護する人も穏やかに過ごせることを知ってほしいです」
何事も“相手を受け入れる心”が大切なのですね。

(K・T)