仏性を拝みましょう 人の良いところを見つけてほめましょう

掲載日:2014年9月1日(月)

常不軽菩薩のこと 但行礼拝

日蓮聖人は「お釈迦さまの教えは人の振る舞いにある」と言われました。その元にあるのが「常不軽菩薩」の行ないです。

常不軽菩薩は会う人毎に手を合わせ、「私はあなたを軽んじません。あなたは将来、菩薩道を行じて仏となる人だから、私はあなたを敬います」と言って歩かれました。いきなりそう言われた人はびっくりして、中には怒る人もいました。極端な人は、石を投げつけてきました。それでも常不軽菩薩は「あなたは必ず仏になる人です」と拝むことを止めませんでした。

   人の良い部分だけを見る

アメリカに、次のようなお話があります。紫雲荘という修養団体の代表だった、橋本徹馬さんが書いておられます。

アメリカのある刑務所に十九歳の凶悪犯が入ってきました。刑務所ではどんな凶悪犯にも必ず教戒師がつきますが、この少年についた教戒師の神父さんが話をしようとしたら、少年は最初「俺は天国の案内人の話なんか聞かない。だまされないぞ。向こうに行け」と言って聞こうとしませんでした。

それから七年後、その神父さんの「教戒師生活二十五年」というお祝の式典がその刑務所であり、驚いたことにかつての少年が出席してスピーチをしました。

「自分は神父さんのおかげで生まれ変わりました。自分はろくでもない人間だと思っていましたが、神父さんが『君の良い所ばかりが私には見える。君は素晴しい人間だ』と会うたびに言って下さったのです」

つまり“その気になった”ということです。神父さんによって“自分には良い所がある。いい人間なんだ”と刷り込まれたのです。

少年はこの時、結婚して子どもが出来、空軍に入隊して戦功を納め、世間の人から尊敬されるような人間になっていました。それも全部、「神父さんのおかげ」と言い、「神父さんが、私には良い所がたくさんあると言って下さったおかげで、私は刑務所を出てから何の引け目も感じずに頑張れました。そして普通の人以上に幸せに、また世間の尊敬を集められるような人間になれました。『二度と帰ってきたくない刑務所』に今日帰ってきたのも、神父さんのためにスピーチをしたいがために他なりません」とお礼を述べたのです。

橋本さんの話によると、一般の刑務所は再犯・累犯と言って、一度出ても戻ってくる人が多いと言います。ところがその刑務所では、この神父さんのおかげで八割近い人が戻って来ることなく、七割近い人が普通の人以上に成功したと言います。その実績を見て橋本さんは「人間の善なる部分、仏性を拝むことが大事である。そうしてゆけば必ず立ち直る、と信じきることが大事だ」と言われています。

大体の人は「刑務所に入るような人間は悪いやつだ。悪いやつはなかなか良くならない」と思っています。そう思ってそういうことを言うので、言われた人も「自分は悪い人間なんだ」と刷り込まれ、「矯正することは出来ない」と思い込んでしまいます。刑務所を出ても悪い刷り込みのままなので「また自分はやってしまうかな。世間の人は自分のことをそう見ているに違いない」となって、また罪を犯してしまうのです。そうならないために、人の良い部分を見て拝むことが大事になるのです。これは、常不軽菩薩の精神と同じです。

   ホ・オポノポノ

今から八、九年前ハワイの秘法「ホ・オポノポノ」というのが流行りました。

ハワイ州立病院の「触法精神障害者病棟」の担当をしておられた精神医学者のヒューレンという方が広められたのです。

触法精神障害者病棟とは、犯罪を犯したけれども精神障害によって不起訴になった人が収容されている病棟のことです。その病棟は非常に荒れていて、看護師も医者も怖くてなかなか近寄れませんでした。いつ後ろから襲われるかわからないので、いつも壁を背にして歩いていたそうです。担当になると仮病を使って休むお医者さん、看護師さんも多かったそうです。実際に収容者に危害を加えられた人も大勢いました。そこにヒューレン医師は配属されたのですが、それ以来、病棟の雰囲気がだんだん変わっていったと言います。まず、収容されている人達が乱暴をしなくなったのです。それから病棟全体が落ち着いてきて、お医者さんも看護師さんも休まなくなり、ついには退院出来る人も出てきました。ヒューレン医師のいた五年間でほとんどの人が良くなって退院し、結局その病棟は必要なくなり、閉鎖になったそうです。

そこでヒューレン医師はいったい何をしたのか、が話題になりました。

ヒューレン医師は「私がしたのは入院患者達のカルテを見て、拝んだだけです。写真とプロフィールを見て、ある言葉をつぶやいて拝んだのです」と言われました。不思議なことですがそれだけで良くなったというのです。

その言葉は「愛しています」という言葉です。

常不軽菩薩も、教戒師をされていた神父さんもヒューレン医師も、「人間は拝むだけで良くなる。相手の良いところだけを見て、そこを拝む。それだけでその良い部分が現われてくる」ということを教えてくれています。

人の仏性、良い部分を一生懸命拝み、引き出すには、言葉が必要です。その言葉によって人間は変わります。親から子どもへの言葉とか、学校の先生から生徒への言葉によって変わることはよくあります。

   言葉の力

こんな話があります。アメリカのある学校で、理科の授業中に実験に使っていたマウスが逃げ出しました。みんなで一生懸命探しましたが見つかりませんでした。先生は何とか見つけようと、「これだけ探して発見出来ないなら、あとはスティーブ・モリスくんにお願いするしかない」と言いました。それも自信たっぷりに言ったのです。

すると途端に「なんであいつに探せるんだ」とみんながざわざわし始め、一人の生徒が「モリスくんには無理ですよ」と言いました。モリスくんは目が見えないのです。すると先生が「確かにモリスくんは目が不自由です。だからモリスくんには無理だとみんな思うかも知れません。でも先生は知っています。モリスくんは目は不自由でも、神様から素晴しい能力をもらっています。それは聴力です。それを活かせば必ずマウスを見つけてくれると先生は信じています。モリスくんお願い出来ますか」と言いました。するとモリスくんは「わかりました」と言って耳をすませ、マウスの鳴き声を聞きつけてすぐに見つけたそうです。

モリスくんはその日の日記に「僕は生まれ変わった。先生は僕の耳を『神さまがくれた耳』と言って褒めてくれた。僕はそれまで目が不自由なことを心の中で重荷に感じていた。でも、先生が耳を褒めてくれたことで、僕には大きな自信がついた」と書いたそうです。

マウス事件から時が経って、モリスくんはその「神の耳」を活かし、音楽の道に進みました。そして“スティービー・ワンダー”となったのです。先生のひと言によって大音楽家が誕生したというお話です。

逆の話もあります。ある高校生が交通事故で頭を怪我して、意識不明の重体になりました。それでも家族はあきらめず「戻って来い。戻って来い」と二十四時間、耳元で言い続けました。お医者さんに「刺激を加えるといい」と言われたので、一生懸命手をさすったり、顔をなでたりもしました。その甲斐あって、一か月過ぎた頃、体がピクッと動きました。それに自信がついて、家族がより一層、声をかけたり、さすったりしたところ、二か月たって意識が回復しました。それから、右半身が動くようになりました。右脳が特に傷ついていたので、左半身は動かないだろうと言われていましたが、その左半身までが正常に動くようになりました。二年後には高校に復学も出来ました。奇跡でした。

ところが復学した後に一人の教師が「とても頑張っているようだけれども、右脳の大半に傷がついてしまっているから、いくら頑張っても限界があるだろう。君のようなハンディを背負った生徒が通う学校があるから紹介しようか」と言ったのです。先生は善意で言ったのかもしれません。しかし、その生徒は「右脳に傷」「ハンディ」という言葉にすごくショックを受け、家に帰ってから左半身がまったく動かなくなってしまいました“心ない教師の一言”で、いくらリハビリをしても動かなくなってしまったのです。

   母親の愛

神津カンナさんが講演ですばらしい話をしてみえます。

生まれつき耳たぶが片方無い男の子がいました。クラスメイトがこの子をからかい、いじめました。しかしその子は非常に強くて、からかわれてもいじめられても平気で、逆に相手をやり込めてしまうぐらいでした。担任の女性教師が“なんでこの子はこんなに強いのだろう”と不思議に思い、本人に聞いてみました。するとその子は「僕は他人に何を言われてもぜんぜん気にならないんです。落ち込むこともありません。なぜなら、お母さんが小さい頃から『お前の耳はへんちくりんだけれども、お母さんは世界一その耳が大好きだよ』と言って、いつも耳にキスをしてくれたのです。僕はお母さんが褒めてくれるから、他の人に何を言われても平気なんです」と言ったということです。

   仏性への働きかけ

言葉が大事なのです。ホ・オポノポノのヒューレン医師は障害者の写真とプロフィールを見て「愛しています」とカルテに向かい、語りかけました。それだけで、言われた障害者が変わっていったように、言葉は本当にすごい力を持っています。特に相手の内面の仏性に働きかけるつもりで、相手をほめ、力づける言葉を使ってゆくならば、人間関係はより良くなるに違いありません。