心を込めて仕事をしましょう

掲載日:2015年6月1日(月)

繁栄の法則  やりがいを見出す

本題に入る前に“なぞなぞ”を出そうと思います。

「食べるととても元気に働くことができる貝はどんな貝?」

答えは「やりがい」です。

仕事の“やりがい”は即“生きがい”に通じていきます。世の中には「私は趣味に生きている」とか「余暇が大事だ」という人がいますが、仕事以外に費やす時間はしれたもので、仕事をしている時間の方がずっと長いものです。人生の中心は仕事ですから、その仕事にやりがいがあるということは、それが即、生きがいに繋がっていくのです。

横浜市長の林文子さんが「人生は仕事の中でしか学べません。仕事以上に楽しめるものはないと思います。働くということは素晴らしい。辛いこともあるけれど、自分が磨かれ、心が豊かになっていきます。私の場合は、生きていくこと即、仕事をすることだと言ってもいいくらい、仕事を大切にしています」と言っておられます。

では、どのような心持ちで仕事をすればいいかということですが、アメリカにマーチン・ルーサー・キングという、黒人の牧師さんがおられました。当時のアメリカは人種差別がとても激しく、その人種差別に対して戦った人がキング牧師です。

キング牧師がワシントンに数万人を集めてされた講演が非常に有名です。この講演の第一声が「 I have a dream(私には夢がある)」でした。その夢というのは、黒人の自分の子どもと、白人の子どもが一緒に机を並べて学校で勉強することです。小さな夢のように思えますが、実はこれが人種差別の国、アメリカでは非常に大きな夢だったのです。未だに語り継がれる有名な演説です。

このキング牧師が仕事に関して素晴らしいことをおっしゃっています。

「もし道路掃除の仕事を与えられたら、ミケランジェロが絵を描くように、ベートーヴェンが曲を作るように、シェークスピアが詩を書くようにするべきだ。天国の神さまと地上の雇主を“素晴らしい掃除人がいるな”と感心させるくらいにしっかりとやるべきだ」

“芸術家がその仕事に取り組むように、道路掃除をしなさい”と言われているのです。

私が大学生の時、友人が“将来の仕事を何にしようか”と悩んでいました。早稲田大学には雄弁会という、政治家やジャーナリストを目指す人の集まるサークルがあります。彼はそこの大先輩に「将来、何をしたらいいでしょうか」と聞きに行きました。

結局、ジャーナリストになりましたが、その先輩は彼に「とにかく、何にしても芸術の域に達するまでやることだよ。どんな仕事でもその域に達したら大したものだ。何を選んでもいいが、それくらいの心がけでやるべきだ」と言われたそうです。これが彼の座右の銘のようになり、事あるごとに「何事も芸術の域に達するまでやらないといけない」と言っていました。

仕事は人に喜んでもらうために一生懸命するべきです。あるアメリカの鉄道会社の社長さんが線路の修理現場を視察してまわった時、一人の作業員が親しげに話しかけてきました。

「久しぶりだね。君も随分出世したものだ。君が社長になったと聞いたときはとても驚いたよ」。よく見るとその作業員は、社長が入社した時に一緒に入った人でした。同じように作業員として働きだしたのですが、片や作業員のまま、片や社長になった違いはどこにあったのでしょう。答えは次の会話です。

その作業員が「十年前は一緒に五十ドルの日給をもらうために働いていたのに、君は変わったね」と言ったのです。すると社長は「そうだったのか。君は五十ドルをもらうために働いていたのか。私は入社した時から今まで、会社のために、そして、世の中の人達に快適な旅をしてもらうために働いてきたのだよ」と言いました。

この心構えが、結果的に社長と作業員という違いを生んだのです。

似た話がヨーロッパにあります。三人のレンガ職人の話です。大きな修道院の建築現場で三人のレンガ職人が働いていました。その修道院は、完成まで百年くらいかかるだろうと言われていました。その作業員達が生きている間には完成しません。そこである人が三人のレンガ職人に「あなた方は何をしているのですか」と質問しました。すると一人目のレンガ職人は「見ればわかるでしょう。レンガを積んでいるのですよ。

こんな仕事はもうこりごりです」と怒った口調で答えました。二人目の職人は「レンガを積んで壁を造っているのです。この仕事は大変だけどお金がいいんでね」と言いました。三人目の職人は「私は修道院を造るためにレンガを積んでいるのです。この修道院は多くの信者さん達の心のよりどころとなるでしょう。私はこの仕事に就けて幸せです」と答えました。

それから十年くらい経ってその三人がどうなったかというと、最初の職人は以前と同じように、愚痴をこぼしながらレンガを積んでいました。二人目の職人は、もっと条件のいい仕事があると言われてその仕事を辞め、賃金はいいけれども非常に危険な屋根を工事する仕事に就いていました。三人目の職人は、それからいろいろな知識や技術を身につけ、現場監督として活躍していました。そして多くの職人を育て、亡くなった後、完成した修道院にその人の名前が付いたということです。

できすぎた話のようですが、それくらい心構えによって結果が変わってくるのです。

   喜びを実感する

人間の多くは誰しもただ働くのではなく、働くことの意義を求めていると思います。そして、周りの人に喜んでもらっているということを実感したいのです。その感覚がないと仕事を続けていけません。

上田比呂志さんの書いた『ディズニーと三越で学んできた、日本人にしかできない“気づかい”の習慣』という本に、アメリカのフロリダにあるウォルトディズニー・ワールドリゾートで働いていた時のことが書かれています。上田さんはそこで日本館を任されたのです。そこでは日本のいろいろなことを紹介したり、日本食を提供しており、働く人のほとんどが日本人でした。料理を作ることも運ぶことも日本人がしていましたが、ある仕事だけベトナム人がしていました。それは、食事が終わった後に机をきれいにして、テーブルクロスを張り替え、食器をまたきれいに並べるという仕事でした。しかし、その仕事が非常に遅かったそうです。

すぐにお客さんが並んでしまい、いくら早くやるように言ってもなかなかできません。初め、これは国民性かなと思ったのですが、違いました。お客さんの感謝の気持ちがベトナム人には伝わっていなかったのです。そこで、それを伝えてあげるといいのでは、と思い、「テーブルクロスの張り方がすごく良かったよ。ナプキンの折り方もまた良かったよ。お客さんが“すごく清潔でちゃんとしていて、気分が良かった”と喜んでいらしたよ」とベトナム人達に伝えると、それからテキパキ仕事をするようになったそうです。そのうちに「折り紙を教えてほしい」と言うので鶴の折り方を教えると、ナプキンを鶴に折るようになりました。すると、ますます評判が良くなり、さらに褒めると、より一層仕事が早く丁寧になりました。

また、ベトナムの人達はそれまでほとんど笑わなかったのに、いつの間にか笑顔を見せるようになったそうです。そして上田さんは「彼らにおもてなしとはこういうものだと説明するより“自分のやることが誰かのためになっている。気を利かせることで喜んでもらえる”と体感することによって、自分達で考えて行動するようになり、マニュアルさえも必要ではなくなる。感謝の気持ちが伝わると必ず人は変わるものだ」ということを言われています。

その通りだと思います。一生懸命やって、周りの人の喜びが実感できると人間はより頑張れるものです。

   物に思いを込める

もう一つ大事なことがあります。仕事をする時、祈りを込めることです。『繁栄の法則』という本を書かれた北川八郎さんがおっしゃっていたのですが、非常に良いことだと思いました。

北川さんの講演会にパン屋さんが来られたそうです。そこで北川さんが「遠方からありがとうございます」と言うとそのパン屋さんは「実はお聞きしたいことがあってきました。私はお客さんに“本当においしい”と言ってもらえるパンを目指して作っているのですが、何かが足りないような気がするのです」と言いました。そこで北川さんが「それでは、パンの中に祈りの心を込めたらどうですか。“このパンを食べた人が安らぎ、心の痛みが取れますように。このパンで多くの人の心が癒されますように。

このパンを食べた人が、健康で活力がわきますように”というような祈りを込めてパンを作ったらどうでしょう」と言うと、そのパン屋さんは「それはいい」と言い、それ以来、幸福の祈りを込めてパンを作るようになったそうです。結果、とても繁盛したということです。

北川さん自身の体験もすてきです。北川さんは断食を何十日間もしたり、山奥で焼き物を作ったりと、宗教家のような方です。最近はその焼き物が評判になってよく売れているそうです。東京のあるデパートで個展を開いた時、電話がかかって来ました。百貨店の人が「北川さん、どうも苦情の電話のようですよ」と言うので出てみると、焼き物を買った人からの電話でした。

それは、トマトで作った釉薬をかけて作った茶碗でした。その人の奥さんは随分前から目を悪くして、最近はほとんど見えなくなっていました。その奥さんがその茶碗を手に持って、「この器はなんて優しいんだろう」と言って、いきなり涙をボロボロと流したというのです。ですから、それを買ったご主人は“呪いのかけられた変な茶碗じゃなかろうか”と電話をしてきたのだそうです。

北川さんは、自分の作った器が“手に取った人がもし病気ならその病気が少しでも軽くなるように。怒りを持った人ならば、その怒りがどこかへ行ってしまうように”という祈りを込めて陶器を作っていたと言います。その祈りが奥さんにはわかったのです。

物に人間の心が入る、伝わるというのは本当です。昔よく、上野支院の犬飼法尼が「どんな物にでも感謝して、お題目を唱えて使うと長持ちする。冷蔵庫でも洗濯機でも『ありがとうございます。ありがとうございます』と心を込めてお題目を唱えて使うと、壊れなくなる。逆に感謝の心がないとすぐに壊れてしまう」ということをおっしゃっていました。その話をある青年会の方にしました。

その青年は精密部品を組み立てる仕事をしていましたが、手先があまり器用でなく、製品をよく壊して上司にたびたび叱られていたそうです。それを聞いて「とにかくこの仕事ができてありがたいという気持ちを持ち、部品にお題目を込めてください。仕事をしながらでは大きな声が出せないと思うので、心の中でいいからお題目を唱えて仕事をするといいですよ」とお話ししたのです。

すると後日「本当にありがたいです。製品を壊さなくなりました」と、喜んで話してくれました。

何をするにも祈りを込め、お題目を込めてすると必ず良い方向に向かいます。